パノム・ルン
今日は、このツアーのメイン・イベント、パノム・ルンを訪ねる日。
ピマーイより後、アンコール・ワットより前に建てられたとされるパノム・ルンは、イサーンに残るクメール遺跡の最高峰と言われ、なだらかな低い死火山(標高242m)の山上に偉容を誇っています。言うまでもなく、パノム・ルンの「パノム」はプノンペンの「プノン」と同じく「丘」という意味です。コラートから車で2時間程走り、そのまま坂を登っていくとパノム・ルン史跡公園の入口に着きます。参拝前の王が衣裳を替えたところとされる建物跡を右に見ながら進むと、突然正面に参道が現れ、その向こうに階段を登って高く、パノム・ルンの祠堂が見えてきました。
参道を進み、背中のウロコが妙にリアルなナークに飾られた手すりつきの階段を登って回廊をくぐると内院。こちらは中央祠堂も赤い岩で作られています。建物の規模もすばらしいし、入口の上を飾るレリーフの美術的価値もすごいものがあります。アンコール・ワットの壁面レリーフは全体に彫りが浅いのですが、ここのレリーフはバンテアイ・スレイのそれと同様、非常に深い彫りが特徴です。とりわけ祠堂の正面入口上部に飾られている「水上で眠るナーライ神」のレリーフは、一時盗まれて米国に流出していたのを大衆運動の盛り上がりもあって取り戻したものという逸話つき。中央祠堂の中には、3つの目を持つ破壊の神シヴァの象徴であるリンガ(男根をかたどった石)が置かれ、そこに注いだ聖水が流れ出るように溝が北側に向かって仕組まれています。

遺跡の中では各国からの観光客やバックパッカーが盛んに写真を撮っていますが、オレンジ色の衣に身を包んだ若い僧侶達がすっかり観光客モードに入ってお互いにカメラに向かってポーズを作っているのには爆笑しました。僧侶もまた人の子です。いくら時間があっても見飽きないところですが、後の予定もあるので後ろ髪をひかれつつ回廊の外に出ると、階段上のテラスから右(前述したように、クメールの遺跡は原則として東に向いています。したがって「右」といえば南です)にイサーンの平原の広がりが見渡せ、さほど遠くないところに山脈が走っているのが見えました。イサーンとカンボジアを分かつドンラック山脈です。

このテラスから、パノム・ルンからほど近いところに比較的大きな四角い池が見えます。サイチョルが「あのバライの横にムアン・タムがあります」という説明に納得。アンコール・トムの東西に巨大なバライ(西バライ / 東バライ)があったように、あれは灌漑用の貯水池です。

パノム・ルンから車で少し走ったムアン・タムもきれいに整備された公園になっていますが、人影もまばらで静かな雰囲気が好ましく感じられます。大きな木に囲まれた外部回廊から中に入ると、内部回廊を包囲する4つの濠池。これは、大海に囲まれた須弥山(メール山)のモチーフで、アンコール・ワットと共通のものです。正面から内部回廊の門をくぐると、中には4つの塔が建っていて、サイチョル曰く、それぞれシヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマー、ラクシュミーを祭ったものだそうです。10-11世紀に建てられたというムアン・タムは、規模ではパノム・ルンに劣りますが、落ち着いてクメールの栄華を忍ぶには好適の遺跡です。

昼食は昨日に引き続きイサーン料理。どうもサイチョルは我々の胃の容量を過大に評価しているようですが、なにしろおいしいので「あー、苦しい」と言いながらひたすら食べました。
午後は遺跡を離れて、イサーンの工芸品を訪ねます。まずシルクの産地として有名なパクトンチャイへ行きましたが、ちょうどお昼時で機を織る人はいません。織機だけ見せてもらいましたが、どうやら糸にあらかじめ決められた順番と長さで色を着け、それを織り上げていく方法のようです。つまり、模様を作るのに色の違う糸を組み合わせるのではなく、最初から模様ができることを計算した染めが施された糸を組んでいくわけで、非常に高い精度が必要になるわけです。このあとシルク・ショップに入り、お買い物。こちらはすぐ飽きてしまいましたが、F女史は目を輝かせて次々に絹布を見て回ります。赤紫地のきれいな布が気に入ったF女史は、さんざん価格交渉して3,500バーツで購入しました。この店ではせいぜい15%までしか下げてくれないのですが、それでもバンコクで買えばこの3倍はする、とほくほく顔(帰宅してからのエトさんの査定でも、「いい買い物だ」と合格点をもらえました)。ついで焼き物の店が並ぶダン・クウィアン。ここで私は、クメールの建物を特徴づける赤い砂岩の小さな彫り物を買いました。

これでツアーは終了。車で空港まで送られ、サイチョルとジャニーズ運転手に別れを告げて、TG063便で夕方のバンコクに帰り着きました。
夜、F女史の運転する車でスクンビットの24-26にある複合商業施設Emporiumへ。ここでアンコール・ワットの写真集やら、土産のJim Thompsonの象のぬいぐるみやらを買いましたが、実はトム・クルーズの『Mission Impossible 2』(タイ風の読み方は『ミッション・インポッシブル・ソン』)が目的です。既にこの映画を見ているF女史ですが、いたく気に入って、私がバンコクに来たらもう一度見たいと思ったようです。
大きな映画館の椅子はふかふかで座り心地抜群、しかし深夜なので客はまばら。予告編やコマーシャルが延々と続きますが、携帯電話のCMで丈夫さをアピールするために携帯電話機をすりこぎみたいにしてがんがんソムタムを作るシーンが出てきましたのには笑いました。ひととおり予告編が終わったところで突如王様のテーマ曲が流れて全員起立。画面には王様のお姿が大写しにされ、荘重な雰囲気です。本編の方は、当たり前ですが英語のセリフにタイ語の字幕で、よくわからないところも多かったのですが、なかなか楽しめました。特に最後の、砂に埋もれた拳銃を、足を砂に蹴り込むエクスプロージョンで真上に飛ばすシーンはかっこ良かった!また、最初の方に出てくるフリークライミングのシーンも、真横へのランジ(ジャンプ)の前までは本物ですごいと思いました。