朝7時頃、自分の泊まっているコテージのベランダに出ました。湖面までは高さ1m程で、階段が湖面まで降りており、コテージから直接舟に乗ることもできるつくりになっています。そしてこちらは西岸なので、湖の向こうの山の上からのぼる朝日を見ることができる絶好のロケーション。吐く息は白く、手をこすり合わせながら日の出を待っていると、ガラスのような湖面の上をかすかにあるかないかの朝もやが湧き流れ、魚が起こす小さな波紋があちこちで同心円を描いています。ときおり通る鳥や、船着き場に滑りこんでくる小舟も風情があっていい感じです。やがて山の端の雲が黄金色に燃えて、その中から穏やかな朝日が昇ってきました。静かな湖面に映る空とお日さまと雲と山、この世のものとは思われない美しさです。

朝食をとって、今日はインレー湖の上を移動しながらあちこち観光。その手始めに、まずホテルの近くに住む首長族の暮らしを見せてもらいに行きます。歩いて数分のところに建つ高床式の住居に住む首長族の家族と会いました。説明によれば、「首長族」と言われてはいますが、本当は首が長いのではなく、8歳頃から首にコイル状の「輪」を巻き、年齢とともに長いものに替えていくために肩が落ちているのだそうです。このようにして「首を長く」するのは女性だけで、女性のご主人という男性はふつうの姿かたちをしています。彼は自分の奥さんを38歳と紹介していましたが、後でチョチョルィンさんと私は「あれは絶対さばを読んでいるね」と話し合いました。奥さんたちはちょうど機織りをしていて、なかなかきれいな織物があったので3,500チャットでお買い上げ。

昨日の船着き場に着くと、ちょうど地元の女の子が白い水鳥を呼び集めて餌をやっているところでした。水鳥たちは低空を旋回していて、女の子が餌を高く投げ上げると実に上手に空中で受け止めます。たいしたもんだと感心しながら見ている間に昨日の一列椅子付きボートの準備ができ、乗り移って湖上へ繰り出しました。南北に細長い湖を南下して、最初に行ったのは水上マーケット。浮き島の間の水路を縫うように進むとたくさんのボートが集まっている一角があって、そこがマーケットでした。エンジンを引き上げ櫂で操船しながら中を抜けていきましたが、物売りの舟と外国人観光客の舟が入り交じって行き来しているさまは壮観です。外国人向けの骨董品を満載した舟が多いのですが、ほかにもトマト、バナナなどの鮮やかな色が目立ちます。奥の方で銀色の板をもった何人もの人が立っていて「?」と思ったら、なんと映画の撮影で、ヤンゴンからヘーホーまで乗った飛行機の我々の前の席にすわっていた女優さんが小舟に乗っていました。しかし周囲の人たちは撮影隊に興味津々。とうとうスタッフから「こちらを見ないで下さい!」と注意が飛んでいました。
ついで、インレー湖の中に聳え建つ寺院、ファウンドーウー・パヤーへ向かいます。寺院はかなり大きく、こんなものが水上に建っているというのがまず驚きです。その近くのドックに、伝説の鳥カラウェイ(ガルーダ)を模した双胴船が停泊しています。黄金の胴体に赤い目が目立つ巨大な鳥は、9月から10月にかけてのファウンドーウー祭りの際に本尊を乗せてゆっくりと湖を巡ります。この祭りの様子を以前テレビで見たことがありますが、若者達が総出で櫓を漕ぎカラウェイを牽引する様子はなかなか勇壮でした。なるほど、これがあのカラウェイか〜、と飽かず見上げているうちに舟は寺院の船着き場に到着。

階段を上がって本堂の2階にあるホールへ。中央の祭壇に5体の金色のかたまりが安置してあって、これがカラウェイに乗せられて湖を移動する本尊です。これはもとは仏像の姿をしていたようですが、信者(これも男性しか触れません)が貼り付ける金箔のせいで卵のようなかたちになってしまっています。私もさっそく金箔を買い求めて「もっとクライミングがうまくなりますように」と祈りながらぺたぺたと貼り付けました……が、たぶんこういう横着な願いではご利益はないだろうなと我ながら思いました。ホールの壁の上の方には、例によってこの寺院や本尊の縁起が絵で示されています。その内容はよくわからなかったものの、本尊の5体が14世紀に山の中の仏塔から発見され、インダー族に授けられた経緯や、本尊の不思議な力について説明されているようです。また、もともとこの本尊はセイロン方面で作られたものという伝説もあり、仏教伝来のルートを示すようで興味深いものがあります。
続いてガーペー僧院。こちらも高床式で水上に建っています。「ジャンピング・キャット・モナストリー」という別名があり、ここに住みついた猫たちは僧侶の合図でジャンプして輪をくぐるという芸を見せてくれるとのこと。本堂には実に大きくて立派な厨子が林立していて、その中にさまざまな仏像が収められており、ミニ三十三間堂といった雰囲気があってこれだけでも見ごたえ十分ですが、中をぐるっと回ると床の上の日だまりに猫たちが数匹ひなたぼっこをしているのに出会って期待が高まりました。オレンジの僧衣をまとった僧侶が窓際の椅子にくつろいだ姿勢のままドスのきいた声でこちらに「ジャパニーズ?ゲンキデスカ?」と話し掛けてきてびびらされたりもしましたが、観光客が集まった頃合いを見計らって僧侶のひとりが猫たちを集め、一匹ずつ輪くぐりをさせます。猫たちも嬉々としてやっているわけではなく、なんだかふてくされているように見えなくもないのですが、それでも僧侶からなだめられたりすかされたりしているうちに「しょうがねーなぁ」という表情で輪を見上げ、ぴょんと跳んでみせます(左の画像をクリックして下さい)。一匹も失敗することなく輪くぐりをしてみせてくれて、周りで興味津々に見ていた各国の観光客たちからブラボーの拍手喝采。しかし、なぜこんなことをするようになったんでしょうか?
こうした見どころの合間に、湖の各地に点在する工房を見て回ります。和紙そっくりの紙作り工房では、目の前で紙を漉くところを見せてもらいました。その店鋪では傘やランプなど紙を使った工芸品も作っているほか骨董品の類がぞろぞろ並んでいて、私もお土産に置き物などを買いました。さらに機織り工房では、純白のシルクの糸を客の注文に応じて好みの色に染めるところを見ました。複数の染料を混ぜ合わせて湯に溶き、そこにシルクの糸の束を手早く漬け込み干すだけですが、染め方の年配の女性の明るい笑顔と真っ白な歯が印象的です。そこへやってきたグランドマザーっぽいおばあさんも、穏やかな実にいい顔をしています。かえって、近くの室内でカタコトと機織りの仕事をしている若いお母さんたちの方が仕事に倦んだ顔をしていました。他にも鍛冶屋、船大工、葉巻作りなどを見学しました。

こうした工房は、水上に高床式に建っていたり、木枠の中に土を固めた埋立て島の上にあったりしますが、いずれもその間の移動手段はもちろん舟です。そして面白いのは、インダー族の舟の漕ぎ方。当然長距離を行く舟はエンジンがついているのですが、近場を移動する小舟は先頭に立ち上がって櫂を片足に巻き付けるようにして漕ぐ。よくバランスを失って落ちたりしないものだと思いますが、こうした漕ぎ方で小舟を操る子供達もたくさん見かけたので、これはインダー族にとっては歩くのと同じくらいごく自然になれ親しんだことなのでしょう。彼らはこうした小舟で水路を縦横に移動しながら、職人は工房で働き、漁師は編んだ篭を沈めてとらえた魚を銛で突き、農夫は浮き島に作った畑でトマト、キャベツ、カリフラワー、ヒョウタン、ナス、トウモロコシを作ります。肥料も湖の底からひきあげる水草で、彼らの生活の大半が湖とともにあると言ってよいでしょう。
最後に水上レストランで昼食をとって、「超」がつくくらい楽しかったインレー湖観光はおしまい。ホテルに戻り、荷物をまとめて車でヘーホーへ。そして飛行機でマンダレー経由バガンへ移動。