ほぼ水平になった尾根道を歩いて、白い階段からはだしになり境内に入ります。つるつるの石畳の上を進んだ奥に、黄金の石の仏塔が鎮座していました。大きな岩の上に丸い石が危ういバランスで乗っていて、その上に仏塔が建っているのですが、よく見ると何人もの人が丸い石にとりついてぐいぐい押している……と見えたのは、本当は金箔を貼っているところ。タイやミャンマーの寺院では普通の光景ですが、信者は寺務所で金箔を買って本尊にぐりぐりと押し付けることにより功徳を積もうとしているのです。この丸い石が金色に輝いているのも、金箔が全面に貼られているから。
この石に直接触るためには境内のテラスから細い橋を渡って丸い石を乗せている岩の上に移らなければならないのですが、その橋の入口には門が作ってあって、門衛が見張っています。ご多分に漏れずこの本尊も女性は触ってはいけないので、それを見張るため?ということより、方向によっては手すりがない岩の上で押し合いへし合いになり落ちる者が出ないように人数調整をしているのでしょう。
お祈りをするのは夜に回すことにして、ここから右手=東の方へ伸びる別院(モンソー山)へ行ってみることにしました。なんだか筑波山の男体山と女体山の間みたいな参道(これでわかるようならあなたは山ノボラー)を通って少し登ると修験者が修行する岩屋があって、その上の山頂に別院の建物がこじんまりと建っています。スピーカーからは盛んに何ごとかをがなりたてており、チョチョルィンさんに聞いてみたら、これは寄進した信者の名前を次々に読み上げているのだそうです。尾根はそこからさらに先へ伸びており、その向こうのかなり遠いところまで寺院の建物が点在していますが、歩くと何時間もかかるとのこと。右手近くの支尾根上にはヘリポートがあって、こちらは今は政府や外国からの要人が使っているようです。

戻りは尾根上ではなく、その北側の斜面を下ってみました。こちらにはたくさんの木造の建物がひしめいており、実に多くの人がこの仏教施設のおかげで生計を立てていることがうかがえます。我々が下っている道はその建物群のさらに下を走る道で、こちらも巡礼路になっているらしく、両側に土産物などを売る店が並ぶ土の道を急下降します。途中のきれいに澄んだ神様の井戸を過ぎて、山腹の道をしばらく歩くとカラスの口と呼ばれる岩場。横に張り出した大岩の上に隙間があって、そこへ下から投げ上げたコインが入ると願い事がかなうのだそうです。最初に500チャットの風鈴を寄進してからコインを買い、お祈りをしておもむろに投げ上げます。見ている分には簡単に入るだろうと思っていましたが案外難しく、10枚投げて1枚しか入りません。そうこうしているうちに上から落ちてきた他の人のコインがこちらの頭頂部を直撃して痛い目にあい、周りのミャンマー人たちからは大笑いをされてしまいました。カラスの口の下にはやはり浅くて狭い洞窟があり、数名ずつ交代で中に入ることができます。チョチョルィンさんと私も身をよじるようにしながら狭い入口をくぐって中に降りてみましたが、かろうじて数名がすわっていられる空間の奥にはあやしげな祭壇があって係の男性が一人。500チャットを出して寄進しようとしたところ、係の男性がチョチョルィンさんに何ごとか熱心に話をしています。困った顔のチョチョルィンさんが言うには、1,500チャット出せばもっと功徳になるしお寺の施設ももっときれいにできる、ぜひ1,500チャット出しなさい、ということなのだそうです。お布施の増額を交渉するとは、ミャンマー商法恐るべし。

案じたとおりの急坂を登ってもとの黄金の石に戻りサンセットを見物。なんとも妙なる眺めですが、この仏塔の本番は暗くなってから。いったんホテルに戻って夕食をとることにしました。ホテルのレストランには各国の観光客がひしめいており、ドイツ人、スペイン人、そしてなんとタイ人の団体までいました(ミャンマーとタイは国境で対峙している関係だったはずなのに?)。
すっかり暗くなってから先程通った参道を再び仏塔に向かいます。空を見上げると文字通り降るような星で、その配置は日本と同じ北半球のものなので、チョチョルィンさんにいくつかの星座の名前やカシオペア座を使った北極星の見つけ方などをレクチャーしました。それにしても寒く、熱帯の国とはいってもこの標高・この季節はやはり防寒対策が必要だと思いました。ちなみに私はTシャツの上にフリースを着込んでいるのですが、それでもけっこう寒さを感じます。そして再び対面した黄金の石は、すっかりライトアップされて妖しい黄金の光を放っていました。

まず金箔を買ってきて、テラスから橋を渡って黄金の石のすぐそばへ。10人程のミャンマーの人たちに混じって、私も金箔を石にこすりつけてきました。その後は女性用らしきテラスでチョチョルィンさんが一所懸命祈りを捧げている間、私はぶらぶらと夜の境内を散策。黄金の石に向かってロウソクの炎を捧げ祈る信者の姿にも心打たれますが、境内には昼間以上に人が多く、かなりの数が座り込んで長期戦の様相です。中には既に毛布にくるまって境内で野宿の態勢に入っている人たちもおり、この一風変わった喧噪は朝まで続くのだろうと思われました。
ホテルに戻る途中、建物の一室で人々が人形の周りに集まっているのを見ました。横たわる女性の人形とそれを見守る数体の人形からなり、この人形は自分が痛むところと同じところをさすると、その痛みが楽になるといわれているようです。これもナッ神のひとりなのでしょうか?