目が覚めてみれば夜半の雨は上がって青空が戻ってきていましたが、雲がイタリア側から流れ込んできている様子。マッターホルンも尖った穂先は雲に巻かれています。あの中にいる登山者たちは、今どういう状況にあるのでしょう。ハーフトラバースの日に声を掛けてくれた日本人とはその日の午後に我々がリッフェルホルンの予約をしているときにアルピンセンターで再会していましたが、順調なら彼も今あの雲の中にいるはずです。

ホテルの朝食(それぞれ何種類かのパン、シリアル、ハム、チーズ、それに果物のビュッフェ方式。コーヒーか紅茶を選べます)を終えて、アルピンセンターへ向かいました。あらかじめ、午前7時から1チャンネルでやっているスイス国内各地の地域別天気予報を見て、木曜日は悪天候だが金曜日は回復気味であることを確認してありましたが、アルピンセンターの窓口で示された週間予報の図でも明日は雨マーク。金曜日もかろうじてお日様が出ている状態で、はっきり回復するのは日曜日以降のようです。そこで、当初はこの日にヘルンリ小屋まで入って明日登頂を目指す予定でしたが、1日順延して金曜日を登頂予定日とすることにし、この内容で料金等を支払いました。
さて、そんなわけで空いた1日、昨日のトーマスのアドバイスもあるし、F女史とブライトホルンをノーマルルートで登ってみることにしました。天候に恵まれればクラインマッターホルンからゆっくり歩いて2時間の行程です。いったんホテルに戻って装備を調え、村の奥のゴンドラ駅へ歩きました。ここから乗り換え2回で標高3,838m、富士山よりも高い展望台へ向かいます。毎度思うことですが、ツェルマットの標高が1,620mだから2,200m以上の標高差をゴンドラ / ロープウェイで稼ぐことができるというのは、何ともすごいことです。

下界から見たとおり、上に登るほどにイタリア側から押し寄せてくる白雲が力を増してくるようです。クラインマッターホルンの駅のトンネルを抜けてプラトーの側に出てみると、一面ガスが覆っていてブライトホルンは見え隠れしている状態。ガスに日が遮られている上に風が強く、思いのほか冷え込んでいます。実はハーフトラバースのときかなり暑かったのでF女史に薄着を指示し、私もTシャツにヤッケを羽織っただけの格好だったのですが、これは明らかに装備不十分。それでもハーネスにロープを結んで少しの距離を歩いてはみたのですが、リッフェルホルンで軍手を失っていたF女史は寒風が耐えられず、残念ながら撤退となってしまいました。うーん、せめてフリースくらいザックに入れてくるべきだった。私の判断ミス、すみません……。

F女史はここから下って、あとはツェルマットを探索してみるとのこと。私はなるべく高度に身体をさらしていたいのでクラインマッターホルンにとどまることにし、ここでいったん別れました。ふと見ると近くに「Gletschrgrotte / 氷河の洞窟」と書かれた看板があります。こりゃ何だ?と思いながら中に入ってみましたが、雪〜氷の中にうがたれたトンネルの中によく訳のわからないオブジェなどが置いてあるだけで意味不明……。それにしてもスイス人は働き者です。お客に見てもらおうと、右の写真のようにクレバスに落ちたまま固まっているクライマーもいれば、下右の写真のように軽装で氷の中に立ち尽くしているワイン畑の農夫もいたりするのですから。

クラインマッターホルンは眺めのよい場所ですが、ガスで覆われている日に長時間いて楽しい場所では、あまりありません。そんなところにぼけっとしているのがだんだんばからしくなってきて、30分程で下ることにしました。しかし、ただ下るのではもったいない……。そうだ、途中から下降ハイキングを楽しむことにしよう!1駅くらいならたいしたことはないでしょう。
クラインマッターホルンからロープウェイで1駅下ったトロッケナーシュテークで駅の外に出ると、ハイカーが歩いているのがちらほら見えます。それでは私も、というわけで下り道に入りました。しかし、上述のようにツェルマットからクラインマッターホルンまでの標高差は2,200m以上で、この間にある駅はここトロッケナーシュテーク(2,939m)とフーリ(1,886m)の2つしかなく、「1駅くらい」といってもその差は1,053m!ろくに地図も見ずに下り始めたのが運の尽きで、確かにツェルマットの谷を縦に見下ろす眺めは絶景でしたし、昨日登ったリッフェルホルンが西側からだとジャンダルムのようにすっきりと立っているのも面白い光景でしたが、目の前に見えているツェルマットは下っても下っても近づかず、結局フーリまでたっぷり2時間絞られることになってしまいました。
