3時半起床、4時半出発。いかにも北八ヶ岳の雰囲気をたたえたしっとりとした樹林帯の中を、かつての軌道跡を辿りつつ緩やかに高度を上げていきます。道はすこぶる歩きやすく、途中には「みどり池 / はっても30分」などと楽しい標識もあったりして、写真を撮りながらの楽しい歩きが1時間ちょうどでしらびそ小屋に着きました。

しらびそ小屋でまず我々を出迎えてくれたのは、小屋に飼われている中型犬の吠え声。紛らわしいから、しっぽを振りながら吠えるのはやめてほしい……。そして小屋のすぐ向こうには、かわいらしいみどり池の水面が広がり、彼方には天狗岳。また、池を左へ回り込むと、目指す稲子岳の岩壁も樹林の上に見えてきました。

登山道をそのまま中山峠方面に向かい、しばらく進んで適当に右手の比較的疎らな樹林帯に踏み入るとやがて赤テープが出てきて、これに導かれて斜面を登っていくうちに岩壁の基部に到達しました。そこは顕著なカンテが下りてきている場所で、先行していた現場監督さんは左に回り込んでいきましたが、私の方は右に回りガラガラの圧倒的な壁を見上げながら一段上がると、踏み跡がカンテ上を越すように左に続いていて、すぐに赤テープと残置ピンでそれとわかる取付に到着しました。左に回っていた現場監督さんも別の取付らしい場所に達していたようですが、私が見つけた取付はネットの記録で見た岩の形状そのままなので、現場監督さんにこちらへ戻って来てもらい、ここから登り始めることにしました。空は雲に蓋をされ、冷たい風も吹いているので、夏だというのにヤッケを着ての登攀です。

1P目(30m/III+)、私のリード。カンテの左手を斜上していくラインで、出だしの10mほどは見かけによらず立っていたためにアプローチシューズのままの私はちょっと冷や汗をかきましたが、ここにひとつランナーをとったあとは、ピッチの切れ目までずっとランナウトでさくさくと登りました。このピッチの終了点にはリングボルト3本が打たれていましたが、うち2本は比較的新しく、案外このルートも登られているのだなと妙に感心。
2P目(25m/III)、現場監督さんのリード。顕著な凹角からディエードル、そしておおまかな階段状。ところどころ岩が動く場面もあるようで、現場監督さんもちょっと慎重な動き。「ボルダームーヴ厳禁」を肝に銘じつつ、ディエードル部は右から迂回するように登ればあとは簡単。
3P目(25m/III+)、私のリード。明るいテラスから正面に見上げる凹角右端の幅広いチムニーを登り、突き当たりを左へ抜けるピッチ。チムニー内はホールドが豊富で、内面登攀に慣れていれば難しいところはなく、楽しく登れます。チムニーを抜けたところにも支点が作られていましたが、ここでピッチを切っては短か過ぎるので、抜けて右手に伸びるリッジ上をもう少しロープを伸ばし、やはりリングボルトがふたつ並んでいるところで現場監督さんを迎えることにしました。なお、この凹角の右外側の垂壁にもボルトラダーがあり、こちらは人工登攀のラインかとも思いますが、なかなか面白そうだと見えました(ボルトが生きていれば、の話ですが)。

4P目(40m/IV)、現場監督さんのリード。がらがらの斜面からリッジ上を進んで凹角をバランスで上がり、小テラスから垂壁。この垂壁、高さ3mほどで少々かぶり気味ではあるものの、よく探せばがっちりしたホールドが用意されていて、豪快に乗り越すことができます。

5P目(20m/III)、私のリード。目の前の岩塔をクラック沿いに登れば、もうそこが安定したテラスで、そこから普通に歩いて頂上手前の斜面に達します。

岩塔を登り終えたところでロープを解き、コマクサがところどころに咲く砂礫の斜面を花を踏まないように気遣いながら登って、風が入らない樹林帯に逃げ込みました。これで登攀終了。朝方にはどんよりとしていた空も今はご褒美のように晴れ上がって、天狗岳から硫黄岳にかけてのダイナミックな地形とその下の樹林の広がりがいい眺めです。





