かすかに明るくなるのを待って、出発。今日は烏帽子沢奥壁の変形チムニー(略称「変チ」)を登ります。幸い昨日のフォールのダメージはほとんどないようです。ヒョングリの滝の上、右岸の下降ポイントに着いた頃にはお日様も出てきて、谷の中は急速に明るくなってきました。昨日と同じくテールリッジを登り、衝立岩中央稜基部の平らなところでシューズ以外の装備を準備。さらに烏帽子沢奥壁のバンドを左上気味にトラバースし、湿った浅いルンゼを越えます。変形チムニーの取付は、この湿った場所を過ぎたすぐのところで、よく探せば残置ピンが3本。頭上は「階段状のフェース」になっていますし、少し壁から離れて見上げれば上の方に変形チムニーも顔を覗かせているので、迷うことはないでしょう。
取付に着くまで、今日は前半は私、後半をM田さんがリードすることにしていたのですが、岩はきれいに乾いて良好なコンディションだし、変形チムニーが見えたことでルートファインディングにも支障はなさそう。それに正直に言えば昨日の戦意喪失が尾を引いていて、出だしから変形チムニー手前まではD介さんにリードを譲ることにしました。快く引き受けてくれたD介さん、ありがとう!

1P目(50m/III〜IV+)、D介さんのリード。出だしは見た目通りの階段状ですが、突き当たって左寄りに濡れたフェースを登るあたりから壁が立ってきて、なかなかの手応えとなります。60mロープの利点を活かして、突き当たりのバンドまで。
2P目(40m/IV,A0)、D介さんのリード。目の前のフェースには残置ピンが見当たらず、いったん右の浅い凹角に取り付いてはみたものの、どうも違います。さらに目をこらすと、私が立っている左側のさらに左にスリングが垂れているのが見えたので、D介さんはそちらに回り込んで直上していきました。コールを受けて後続してみるとなかなか厳しい垂壁で、迷わず残置スリングをつかんで身体を引き上げ、上に抜けてみればすぐ右上に変形チムニーが立っていました。

3P目(50m/IV+)、私のリード。変形チムニーの中に入り込んで、バック&フットや両足突っ張りを駆使して身体をずり上げます。誰がつけたか知りませんが、一度聞いたら忘れられないこのネーミング。「チムニー」という言葉が意味する煙突状ではなく、壁に巨大な板状の岩が寄りかかっている姿をしていますが、登り方は確かにチムニー登りです。ここは、いったん奥に入り込んでから徐々に手前へ戻るようなかたちで上がるのがミソで、少々古いものの残置ピンは豊富、ホールドにも困りません。チムニーの上へは左側から抜けて、さらに上のフェースを右へ回り込み、傾斜の立ったランペ状を突き当たりまで。内面登攀が苦手ではない私には、チムニー内よりもこの立ったランペの方が緊張しました。後続の二人を待つ間、ビレイ点からはすぐ向こうに中央稜を登るパーティーや、数年前の凹状岩壁上部の崩壊でむき出しになった白い岩肌がよく見えます。空は青く、風はなく、烏帽子沢奥壁のど真ん中にスリングに身体を預けてのんびり立っているのはなんともよい気分です。
4P目(60m/IV+)、私のリード。2mほどクライムダウンすると右へ続くバンドに下りられ、そこから右手へ進めばルンゼ、そして中央カンテとなります。トポではルンゼは脆いので中央カンテまで進むように書いてありますが、以前現場監督さんがこのルンゼを登ったときの記録では岩は安定しているとのことだったので、かまわずルンゼ内に突っ込みます。下方の烏帽子沢奥壁のバンドは南稜からの帰り道でもあるので、とにかく石を落とさないことだけを注意しながらルンゼの中をよじ登り、途中から右手のフェースに乗り上がってロープを伸ばしました。ところが、そろそろロープの残りがなくなりそうだというのに支点が出てきません。かろうじて60m一杯で古いリングボルトが1本見つかり、そこにセルフビレイをとって足場を固めると、まずはM田さんに後続してもらいました。登ってきてもらったM田さんにはそのまま上へ、中央カンテルート上のビレイ点まで達してもらい、そこでロープを巻き上げて私がM田さんから確保されている状態にしてようやく一安心。ついで、D介さんを後続させました。このピッチで1時間半も時間をつかったことが残業につながりましたが、やはりこの時期の谷川岳に3人パーティーというのはプラン自体に無理があったかも知れない……と後悔するのは後の話。
5P目(20m/III)。M田さんが先行してくれたピナクル下まで。ここからは以前登った中央カンテのルートを辿ることになります。易しいですがランナーがとれないのでリードは慎重に。
6P目(25m/IV+,A0)、M田さんのリード。出だしの2mほどの垂壁は、さしたる苦労もなく身体を引き上げてガバをつかめます。問題はその次のコーナークラックのある垂壁で、前回はリードでA0してしまいましたが、今回はフォローでもあるしフリーで登りたい……と思いながら後続したら、リードのM田さんはここにアブミを残置していました。左手で身体を支えながらその回収に手間取っているうちに「うっ、パンプしてきた……」とあせりましたが、一応フリーで登る意思表示はしてみました。
私「フリーで行きますんで、よろしくお願いしまーす!」
ム「はい、どうぞ!」
私「……と思ったけど、やっぱりA0しまーす!」
シ「(下から)がはははは!」
D介さん、何もそんなに大声で笑わなくても……。M田さんが残していたクイックドローをつかんで、ビレイ点で待つM田さんに合流。最後に登ってきたD介さんも、このコーナークラックの垂壁ではずいぶん息づかいを荒くしていましたが、やはりアブミを出して突破した模様。そして三人が揃ったところで、時刻は14時。これは残業必至の様相を呈してきました。
7P目(30m/IV)、M田さんのリード。左手の易しい凹角を一段上がったところまで。

8P目(50m/IV)、M田さんのリード。烏帽子岩の下の小尾根上まで。時間とともに急速に気温が下がってきたため、M田さんをD介さんがビレイしてくれている間に、こちらはシューズをアプローチシューズに履き替え、ヤッケまで着込みます。このピッチで、登攀は終了です。




