塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

一ノ倉沢烏帽子沢奥壁中央カンテ

日程:2007/06/16

概要:テールリッジから中央稜基部経由中央カンテに取り付き、登攀終了後6ルンゼ〜南稜を経てテールリッジを下降。

山頂:---

同行:現場監督氏

山行寸描

▲快適なカンテの登り。上の画像をクリックすると、中央カンテの登攀の概要が見られます。(2007/06/16撮影)
▲核心部その1=かぶった垂壁を登る先行パーティー。(2007/06/16撮影)
▲核心部その2=コーナークラックの私。かっこつけているもののA0にしてしまった。(2007/06/16撮影)

6月の一ノ倉沢は雪渓がテールリッジまで続きアプローチが楽。そこで現場監督氏と語らい合って、土日で一ノ倉沢と幽ノ沢を1本ずつ登ることにしました。1週間前の時点での週間予報では芳しくない天気だったのが、幸いにも木曜日あたりから急速に好転してくれて、予定通り金曜日の22時に京王線の八幡山で待ち合わせ、現場監督号で一路北上して一ノ倉沢出合の駐車場に着いたのは午前1時頃でした。

2007/06/16

△04:40 一ノ倉沢出合 → △05:30-35 テールリッジ末端 → △06:10-20 中央稜取付 → △06:30-35 中央カンテ取付 → △11:55-12:30 終了点 → △15:00-10 南稜テラス → △15:45-50 中央稜取付 → △16:45-50 テールリッジ末端 → △17:30 一ノ倉沢出合

4時に起床し、身支度を調えて出合を出発。雪は消えて普通に沢筋が出ています。右岸の巻き道を進み、いったん沢筋に下りたちょっと先から雪渓が沢を覆うようになったので、そこで雪の上を歩き始めました。そのままテールリッジに行けるかと思いましたが、秋のルートになっている右岸リッジあたりに大きなクレバスが口を開けていて危険そう。左岸のコンタクトラインを行けそうでもありましたが、大事をとってそのままリッジを上がり、雪がない時期と同様にテールリッジの対岸からフィックスロープにつかまって下降しました。

テールリッジの末端を1段上がったところで軽登山靴からクライミングシューズに履き替え、軽登山靴はデポしました。何度目かのテールリッジはよく乾いて不安なく登れ、衝立岩正面壁の絵になる姿を惚れ惚れと見上げながら30分強で中央稜の取付。ここで最後の準備を済ませると、烏帽子沢奥壁のトラバース道に入りました。以前中央カンテを目指したときは凹状岩壁を登る先行パーティーによる度重なる落石に阻まれ撤退しましたが、今日はどうやら先行の姿も見えず、人為落石は避けられそうです。

きれいなスリングがかかった中央カンテ取付でロープを結び、吉例により私が奇数ピッチを受け持つことにしてスタート(以下グレードは自分が感じたもの)。

1ピッチ目(40m / III+):顕著なバンドをトラバースしていって、ちょっと態勢が苦しくなるあたりでうんうん言っていると、ビレイしている現場監督氏がバンドの下を歩いてきた後続パーティーの誰かに「○○くん?久しぶり!どこ登るの?変チ?」などと話し掛けています。おいおいマジメにビレイしてくれよ、と少々ムッとしながらトラバースを終えてフェースの左上にかかったのですが、ここも難しくはないもののランナウトして微妙によくありません。しかしセカンドの現場監督氏を迎えたところで、話し掛けていた相手が懐かしいさかぼう氏であることを知らされました。なんだそれなら自分も挨拶したかったな。

2ピッチ目(45m / III):スラブ状フェースを横断してカンテに取り付くピッチですが、岩が濡れていて微妙にいやらしい。ここで、我々が1番手だと思っていたのに、実は前に2人組が登っていたことが判明しました。それでもこのルートは比較的空いている方で、南稜などは1ピッチ目途中のチムニーを自力で登れず他人にお尻を押し上げてもらっている人を南稜テラスから10人くらいが半ば呆れながら見上げている様子が見てとれました。

3ピッチ目(40m / IV):出だしの左上バンドがびしょ濡れで嫌な思いをしましたが、カンテ上に出ると乾いた堅い岩となって極めて快適です。朝のうち上空を覆っていた雲が時折切れて青空が覗くようになり、気温も上がってきました。しかし調子に乗ってぐいぐい登っていくうちにやや左に寄り過ぎてしまったため、軌道修正の右トラバースでちょっと冷や汗をかきました。

4ピッチ目(30m / III):引き続きカンテ上のピッチですが、ロープの流れが悪くなってしまったので短めに切りました。ここでしばし待機し、後続のスピーディーなガイドパーティーに先行してもらいました。

5ピッチ目(15m / III-):通常の4ピッチ目の残り。

6ピッチ目(40m / IV):正面の凹角から顕著なチムニーを抜けるピッチ。チムニーは立っていますが岩は堅くしっかりしているので楽しく登れます。

7ピッチ目(30m / III):フェースを左上し、折り返して右上。折り返してからの20mはランナウトするので、易しくても気は抜けません。登り着いたレッジから下を見ると、さかぼうパーティーがずいぶん下の方に見えました。ずいぶんのんびりだなぁと思いましたが、後で聞くと「……いろいろありまして」。

8ピッチ目(15m / V):先行パーティーが2組抜けるのを待ってからトライ。ピナクル下のテラスから1段上がり、薄くかぶった垂壁を越えてバンドを右へ。実はここがルート中の核心部の一つで、現場監督氏は中央カンテもこの下で合流する変形チムニーも登ったことがあるのでこのピッチは私に譲ってくれることになっていたのですが、次のコーナークラック(だけ)が核心部だと思い込んでいた私は現場監督氏にこの垂壁のリードをお願いしてしまいました。もちろん現場監督氏は何の不安もなく抜けていき、続いて私も取り付きましたが、確かにここはちょっと難しい。上のホールドをとって、足を右に出して態勢を作り、そこからデッドに次のホールドをとって強引に身体を引き上げるということを2回繰り返した後、右の崩れそうに見える岩を避けながら足を上げて終了です。頭上には、右からハングが覆いかぶさるコーナークラックがすぐそこにありました。

9ピッチ目(10m / IV,A0):下からみると寝ているように見えるコーナークラック左の壁も、実際に取り付いてみるとやはり立っています。ジャミングで身体を固定してランナーをとってから、しばし逡巡の後に細かいホールドに左足を上げ、左手を壁のへりにとって立ちこんでいきましたが、右壁への右足のスメアがいまひとつ決まりません。うーん、これは困った。後から現場監督氏に聞いたところでは右壁の上に手を思い切って伸ばせばしっかりしたホールドが得られるのだそうですが、このときは手順を組み立てることができず、遂にパンプに負けて残置スリングをつかんでしまいました。残念……。

10ピッチ目(30m / IV):四畳半テラスの名残を見てから浅い凹角を左上。難しくはないのですが、ここもやはりランナウトします。

11ピッチ目(40m / IV):踏み跡に沿って草付を左上。立ったチムニー状がワンポイント微妙。ロープの残りが乏しかったのでバンド上に出たところでピッチを切りましたが、フェースを左上したところにあるしっかりした支点(南稜終了点への懸垂下降ポイント)まで、ぎりぎり届いたかもしれません。

12ピッチ目(30m / III):フェースを左上し、折り返すように右の烏帽子岩基部へ。岩は堅く、高度感も抜群です。

13ピッチ目(30m / III+):烏帽子岩の左下の湿ったルンゼに下り、対岸に渡って草付へ。岩は滑りやすく残置ピンも信用できないので、案外に神経を使いました。

そのまま草付をコンテでほんのわずか登ると、南稜終了点から上に数ピッチ上がった地点に到達しました。ガイドパーティーの姿は既になく、その前にいた男女2人組が懸垂下降に入ろうとしているところで、我々もリュックサックを下ろしてまずは握手。そのまま安定した位置で行動食を口に入れました。

中央カンテは烏帽子沢奥壁のど真ん中を登っていく明るいルートで、岩もおおむね堅く、各ピッチにポイントがある楽しいルートでした。ただ、やはり核心部のピッチで満足のいく登り方ができなかったのは残念。幸い(?)この核心部は変形チムニールートと共有なので、いずれ変チを登る機会を得たときに改めてチャレンジすることにしようと思います。

懸垂下降は長くかかりました。上述の終了点から2回下ったところが南稜の終了点。そこから右手へ踏み跡を辿ると6ルンゼで、狭くじめじめと湿ったルンゼの中を空中懸垂も交えつつ短めに3回に分けて下ってしっかりしたテラス。ここから大岩を右から左へ回り込むように草付帯へと下ったのですが、実はそれではロープが引っ掛かりやすく、最初から大岩の左へ下るべき。我々の動かなくなったロープは、幸い後続パーティーが「こっちからだと引っ掛かるんだよ!」と教えてくれながらさばいてくれたので回収することができました。後は南稜下部を2ピッチ下ってようやく南稜テラスに到着し、烏帽子スラブのトラバースの途中では後続してきたさかぼうパーティーと合流したりしながら、中央稜取付からテールリッジを下りました。

そして、テールリッジ末端でデポしてあった軽登山靴に履き替え、軽アイゼンを装着して雪渓上を下降。くだんのクレバスのところは左岸の岩を登って巻き越し、無事に一ノ倉沢出合に帰り着くことができました。

駐車場のゲートのところにスコープを乗せた三脚を立てて座っているおっちゃんがいて、戻り着いた我々に話し掛けてきました。このおっちゃんはえらく話し好き、かつ自分では登らないらしいのにルートに詳しく、その上、岩に取り付いているクライマー達を日がな一日スコープで観察していたようで「ダイレクトカンテの1人が3mくらい落ちたのを見た」とか「ほら、コップ広場を歩いているのが見える」とか言いながらなかなか我々を解放してくれず、少々辟易しました。

しかしそうした話の中に、今日中央稜を登っていたパーティーの1人が凹状岩壁側に下りて(墜ちて?)しまったとの情報もありました。我々がテールリッジ末端に下り着いたときにヘリコプターが盛んに飛んでいたので事故が起きたのかな?とは思っていましたが、後でわかったところではやはり1人墜落死したのだそうで、報道によるとハーケンを打っているときにバランスを崩して30m転落したとのこと。確かに中央稜からハーケンを打つ音がキンコンと響いていたのを私も聞いていましたが、その人が事故の主かどうかは不明です。

ともあれ、亡くなった方の御冥福を祈ります。

◎「幽ノ沢V字状岩壁右ルート」へ続く。