睡眠時間3時間で午前5時起床。なんとなく雨っぽい曇り空ですが、とりあえず身繕いをしてkuro号1台で林道を進みます。チェーンがかかっている橋の手前のスペースに駐車して、ここから緩やかな歩きで三斗小屋宿跡を目指す……のですが、先程から時折車が抜かしていくのはなぜ?実は、チェーンは簡単にはずれる仕組みになっていたということを、帰り際に知ることとなりました。ただし9月からは完全に閉鎖、と注意書きがしてありました。ま、歩きといってもたいした距離ではなく、ウォーミングアップにはむしろ好適。それに、霧に煙る三斗小屋宿跡の雰囲気は諸行無常というか、ミャンマーとの戦争で廃墟となったアユタヤの遺跡を連想させるものがあって(←ちょっと大袈裟)、ここはぜひ歩いて入りたいところです。

三斗小屋宿跡を通過して少し下ったところが、苦土川(または湯川)。三斗小屋温泉へ通じる登山道が渡る橋をくぐったところで沢装備になって、もうすぐそこの右岸から合わさる沢が井戸沢なのですが、出合は完全に伏流ではっきり言って魅力ゼロ。ちょっと荒れた感じのごろごろ沢を「……なんだかなぁ」と思いながら詰めていくとすぐに水が現れて、やがて一見堰堤のような小手調べの3m滝を越えた先、沢筋が右に曲がるところにいきなり核心の15m滝が出てきました。

ちょうど大人数の先行パーティーが右リッジにとりついていて、そのうちの一人は上部のハング気味の箇所でフィックスされたスリングをアブミ代わりにして登っています。あら、けっこう立っているのね、と見てとった私は基本的に「とらなくていいリスクはとらない」主義。ためらうことなく「ロープを出しましょう」と宣言しました。組み合せは、これまでロープを結んだことがあるkuroさんときむひろさんに組んでいただき、必然的に私のお相手は常吉さん。「ここは(年功序列で)常吉さん、リードいかがですか?」とお声掛けしましたが、実は常吉さんは井戸沢は初めてではなく、この滝もロープなしで登ったことがあるので、私にリードを譲ってくれました。先行パーティーが抜けきるのを待って、まずは常吉・juqchoの紳士同盟が先行。リッジ下部を一段上がったところで立木に常吉さんがセルフビレイをとり、私が登っていきます。中段まではいたって簡単で、上部のハング気味のところも残置スリングをつかめば楽勝でしょうが、いくらリスクをとらない主義といってもそれでは面白くないので、岩壁に胸を押さえつけられながら慎重にホールドを探ると、右手を伸ばした先に好都合なガバホールド。こいつを頼りに最初両足左壁、ついでステミングで上へ抜け、そのまましばらく進んだ灌木に支点をとってビレイ解除としました。後続の常吉さんはまったく淀みなく上がってきて、ついで第2パーティーのリード・きむひろさんも問題なく突破。この後、きむひろさんのコールが滝の音に消されてkuroさんとの意思疎通に苦労したようですが、どうにか全員が15m滝を越えられました。それにしてもきむひろさん、肩からぶら下げているギアやスリングはそのまま店を開けそうなほど多いけど、もう少し軽量化してもよかったんじゃないの?
笹の中の踏み跡を辿って落ち口の上に下りると、そこはもう明るい茶色〜黄土色のナメ滝の始まり。のっけからつるんとした二条滝が我々を誘っていて、ロープをザックにしまった私がまずはフリクションで上に抜けてカメラを構えていると、さすがkuroさん、期待に応えて足を滑らせてくれました。その後も、ひとつ滝が終わるともう次の滝が目の前に待っているという感じで、文字通り息をも継がせないくらいに滝が続きます。しかも、そのほとんどが直登可能。途中、立った5m滝で左から小さく巻き上がってから沢筋に下りるのがちょっと思い切りを要した(残置スリングあり)のと、15mの階段状の滝の中段(残置ピトンあり)でkuroさんにきむひろさんからお助けスリングが出たくらいで、あとはすいすい登っていけます。ガスの中の沢登りであってもこれは実に楽しく、4人とも笑いが止まりません。

さらに途中4mくらいの真ん中から登れば易しい階段状の滝を、わざわざホールドの細かい右壁に取り付いてIV級くらいにして遊んだりしているうちに、いつの間にやら標高1,390mの二俣。ここはガイドにしたがって右俣に入ります。ここからは水量がずいぶん減りましたが、それでもナメ滝はまだいくつか続きます。ただ、あまりに楽しかったので飛ばし過ぎたのと傾斜が急になってきたこともあって、さすがに足を上げるのがきつくなってきました。おまけに気温も湿度も高く、汗が噴き出してきます。しかし先頭を行くkuroさんは一向に休む気配がないので、二番手の私が後ろから声を掛けてみました。
juqcho「(恐る恐る)休憩入れますか?」
kuro「(振り返りもせずに)いえ大丈夫」
ああ、無情!……というより、ここは「休憩入れますか?」じゃなくて「休憩入れていただけますか?」とお願いしなければならなかったのです。日本語って、本当に難しい……。後で聞くと後ろを行く常吉さんもこのあたりはつらかったそうなのですが、結局kuroさんの爆走は最後まで続き、そのまま踏み跡を辿って腰までのわずかな笹漕ぎで稜線の登山道に到着したのでした。




何はともあれ遡行終了。しかし、この後もう一度沢に入るので沢靴は履いたままで行動食を口にし、一息ついてから流石山経由で大峠へ移動。時折青空が頭上に広がる中を到着した流石山の山頂では、出だしの15m滝で見かけた大人数のパーティーが休憩していました。我々もけっこう速かったと思うのに全然追いつけなかったのですから、相当足が揃っていたのでしょう。また、大峠への道はガスの中で展望にこそ恵まれなかったのですが、ハクサンフウロ等の高山植物がそこそこの密度で咲いていていい感じでした。流石山から先もしばらくは水平な明るい尾根道で、晴れていれば熊見曽根越しに茶臼岳までも見通せたに違いありません。

