
一ノ倉沢出合。この時期のこの雪は、かなり多い方なのだとか。(2005/05/21撮影)

テールリッジ全景。それにしても人がわずか。(2005/05/21撮影)

核心部手前のフェイスのビレイポイント。本来はここで切らず、チムニーの上へ一気に抜ける。(2005/05/21撮影)

6P目の懸垂下降。「6P目」というのは登りでのカウントで、下降時にはここは上から5P目だったと思う。(2005/05/21撮影)
この時期の一ノ倉沢に来たのは初めてですが、出合には雪壁ができていて、シュクラさんによればこれは例年に比べてずいぶん雪が多いのだそうです。私はシリオの軽登山靴で平らな雪渓の上をてくてく歩きます。上部にいくにつれて雪渓に角度が出てきますが、それでも不安になるようなところはなく、実にあっさりとテールリッジ末端に到着しました。

テールリッジはきれいに乾いていてフリクションもよく、岩のところどころにイワカガミ、ブッシュ帯にはコブシやシャクナゲがところどころに咲いていてなかなかいい感じです。右のコップスラブ方面を見ると雪がかなり残っていて、北稜を下降したときはやっかいな目にあいそうな気がしましたが、我々は中央稜登攀後は同ルート下降の予定なので関係なし。テールリッジ中間の傾斜の強いスラブ状の部分には真新しいフィックスロープが長く引かれていて、その助けも借りて問題なく中央稜取付に登り着きました。
中央稜取付にいる先客は、二人組1パーティーのみ。それも衝立岩のダイレクトカンテを登るということなので、どうやらこの遅い時刻にもかかわらず中央稜一番乗りということになるようです。後から別の二人組が登ってきて我々を後続することになりましたが、結局この日中央稜を登ったのは我々を含む2パーティー4名のみ。岩は乾いているし空は晴れているし、先行からの落石も心配しなくていいし、なんと恵まれたコンディションなんだろう、と大喜びしながらスタート(以下、奇数Pは私、偶数Pはシュクラさんのリード)。
1P目(IV)、あいかわらず易しく、いったいどこがIV?
2P目(III)、出だしを左奥に回りこんで土のルンゼを直上。
3P目(IV)、最初の際どいトラバースがちょっと嫌な感じでしたが、フットホールドを見つけて右へ回り込み、凹角からフェイスを登ります。ところが、このあたりから浮き石がぐっと増えてきました。一見しっかりしているように見える岩も、手で叩いたり足で蹴飛ばしてみるとボコボコと空洞があるような音がし、はっきりとぐらついている岩もあって慎重に進みます。フォローのシュクラさんも石が浮いていて嫌だとぼやいているし、後続パーティーのリードも同じ感想を漏らしていました。これは昨年の新潟地震のせいなのでしょうか?
4P目(IV,A0)=核心ピッチ。シュクラさんの持っているトポにはここが25mと書かれていたためシュクラさんは途中の支点でいったん切っていましたが、もちろんここは上のチムニーを抜けてもらわなくてはなりません。そこで、途中の支点からあらためてシュクラさんがリードでロープを伸ばし、核心部をみごとにフリーで抜けていきました。フォローの私はチムニー直前で左のフェイスに逃げたかったのですが、ランナーを回収するためにチムニーの中に入らざるを得ず、結局またしてもA0にしました。なお、前回登ったときにはチムニーには残置スリングが豊富だったという記憶がありますが、今日垂れていたのはぐらつくピトンにタイオフされた白いテープスリング1本のみで、しかも私がそれをつかんで身体を引き上げた拍子にピトンが抜けてしまい、残置スリングが皆無となってしまいました。すみません……。
5P目(III)、凹角を登ってリッジ上の顕著なピナクルまで。
6P目(III+)、岩が堅くて快適なフェイス。今日みたいな天気のいい日は最高の気分です。

7P目はブッシュ帯の右寄りの岩を拾いルンゼ上部に出て、8P目は岩場を左から回り込んで草付の上部まで。このあと最終ピッチは右に回って易しい凹角を登るのですが、事実上の登攀は既に終わっているので、協議の結果8Pで終了としました。

尾瀬方面の眺めがよいテラスで行動食をとり大休止。ここから同ルート下降ですが、ロープを2本つなぐと絡んで登り返し、というパターンにはまる可能性が高いので50mロープ1本で懸垂下降を繰り返すことにしました。シュクラさんが支点を補強してくれて、ここから順番を入れ替えながら下りました。とにかく支点に届かなければえらいことになるので、多少短いと思ってもこまめに切っていくことにします。それにいざ下ってみるとロープがロープ自身に絡んでその処理に往生したり、支点にスリングを足さなければ不安な場所もあったりして、どんどん時間がたっていきます。ただ、やはり我々同様50m1本で下るのはよく行われているようで、それくらいの距離ごとに支点がちゃんと出てくるのには助けられました。

最後に1P目を登りきったところのビレイポイントでようやくロープ2本をつなぎ、一気に真下の横断バンドへ下って終了。結局登り3時間40分、下り2時間45分とずいぶん時間がかかってしまいました。やれやれ、と思いながらロープを畳んでいるときに、ブンッ……ドスッ!という音が身近でしてびっくり。我々の後に中央稜を登ったパーティーが下降中に石を落としたようですが、この日初めて落石の危険を身近に感じた瞬間でした。
……もしかすると、これが翌日の敗退の予兆だったのかも知れません。
中央稜取付で、デポしてあった軽登山靴に履き替えます。衝立岩正面壁では雲稜ルートを登るパーティーが奮闘中で、この時刻に壁のど真ん中ということは敗退?それともどこかでビバークするつもりなのでしょうか。ともあれ、我々はとっととテールリッジを下るのみ。途中のフィックスロープの箇所はシュクラさんに頼んでロープを出してもらい、安全に下りました。
雪渓を一ノ倉沢出合へ下り、テントに帰着。ガチャ分けをし、装備を翌日用に詰め直してから、持参したアルコールで乾杯しました。明日も晴れますように!
(→「一ノ倉沢烏帽子沢奥壁中央カンテ〔敗退〕」へ続く)