東京文化会館で、英国ロイヤル・バレエ団のアリーナ・コジョカルとヨハン・コボーを迎えての「眠れる森の美女」を観ました。第12回世界バレエフェスティバルの全幕特別プロとして上演されるもので、バックは東京バレエ団です。今回の「眠れる森の美女」は、2006年に観たのと同じマラーホフ版。よって、興味はもっぱらアリーナ・コジョカルがどのようなオーロラを見せてくれるかに集約されてきます。
というわけで、大まかな進行は2006年のときと同様ですが、やはりプロローグの見せ場はリラの精とカラボスとの対立構図。性格的には善と悪、音楽的にはホ長調とホ短調。そのリラの精は田中結子さんが伸び伸びと踊って舞台全体にぱっと明るさをもたらしていましたが、一方のカラボスを踊るのはあの高岸直樹!長身の彼が違った意味で伸び伸びと性格のねじ曲がったカラボスになりきってくれていて、見ていてうれしくなってしまいます。
そして第1幕、万雷の拍手に迎えられたアリーナ・コジョカルは、登場して最初に足を高く持ち上げた瞬間に、それまで舞台上にいたあらゆるダンサーが霞んでしまうような輝きを見せてくれました。彼女は、身長はむしろ低い方で日本人女性ダンサーと釣り合うくらいなのに、何がどうと説明がつかないのですが、明らかにその一挙手一投足が違います。強いて言うなら、普通の(?)ダンサーの動きがあるポジションから次のポーズへと点と点を直線で結ぶようなデジタルな動きをしているように見えるのに対して、彼女の場合はすべての動作の軌跡と速度がコントロールされ、意味を与えられて滑らかに連続しているように感じます。そして言うまでもなく、手先や足の甲の優雅さと美しさ、表情の可憐さ。そんな彼女が登場後すぐに直面するのが、このバレエの最大の見せ場となるローズ・アダージョです。最初のアチチュード・バランスから、受け取ったバラを両親の足元に(投げずに)丁寧に置いたあと、音楽が最高潮に達して4人の王子たちに次々に手をとられながらのアチチュード・アン・プロムナードとなりますが、最初はぎりぎりのバランスだったのが徐々に安定し、4人目のプロムナードを終えて最後に両手をアンオーにしての静止は十分に長く、次の瞬間に両手を高く伸ばしてフィニッシュのアラベスクに持ち込みました。
第2幕でヨハン・コボー登場。カラボスとの対峙ではリラの精の陰に隠れて弱気なのは前に観たときと同様で、リラの精から「早くあれやんなさいよ!あれ!」とブロックサインを受けてやっと気付いてオーロラにキスし、無事に眠りが覚めて第3幕へ。
第3幕では、おとぎ話の主人公たちによるディヴェルティスマンが見どころになりますが、ダイヤモンド(西村真由美)、シンデレラ(渡辺理恵)、青い鳥(松下裕次)、それに猫たちがそれぞれ見せてくれました。そして、主役二人のグラン・パ・ド・ドゥもまた、アダージョでのすごいスピードのパ・ド・ポワソンがびしびしと決まり、それぞれのヴァリエーション、コーダと力強く展開しましたが、技巧的なこと以上に感銘を受けたのは、大人になったオーロラ姫を踊るアリーナ・コジョカルの王女としての気品です。最後は、例によってカラボスによるフリーズとリラの精による解放を入れて、賑やかに終演しました。
ヨハン・コボーはちょっと無難なダンスに終始したかな、という感がありましたが、やはりアリーナ・コジョカルは魅力的です。これまで観たオーロラ姫というと、たぶん一番最初に観たのが森下洋子さん(四半世紀も前のこと……)で、他に完全無欠のバランスを示したシルヴィ・ギエムも印象に残っていますが、「世界は私のためにある」という感じのギエムのオーロラ姫よりは、アリーナ・コジョカルは持って生まれた可憐さと確かなテクニックとの結合という点で森下洋子さんのオーロラ姫に似ているような気がします。そのアリーナ・コジョカルとは、11月の「くるみ割り人形」で再会する予定。こちらも、今から楽しみです。
