Bunkamura シアターコクーンで、NODA・MAPの「ロープ」を観ました。主演は、宮沢りえと藤原竜也。この芝居は、こたえました。野田秀樹作品としては異例なほどストレートなテーマをストレートに表現していて、特にクライマックスのベトナムでの虐殺シーンでは、宮沢りえの実況中継がもの凄い言葉の暴力となって観客に降り掛かってきました。観終わって、ぐったり。
ところは、四角いジャングル、プロレスリング。
そのリングの下に棲みついている女。
彼女は、未来からやってきたと信じている。
そして、不可解なほどに実況中継が上手かった。
リングの上には、「プロレスは決して八百長ではない」と思いつめている独りのレスラーがいる。
思いつめたあまり、引きこもっている。
その二人の出会いが、物語のはじまり。
やがて彼女は、戦う人間たちの「力」を実況し始める。
その一方で、引きこもりのレスラーは、
「力とは人間を死体に変えることのできる能力だ」という信念に取り付かれていく。
そして、物語は遠い遠い未来へと向かっていく。
デスメタルに乗っておどろおどろしく登場したグレイト今川(宇梶剛士)は、実はヒール(悪役)をやめて観客の愛を得たい。しかし、その今川を非道な手段で半殺しにしたヘラクレス・ノブナガ(藤原竜也)は、自分をコロボックルと信じる不思議な女タマシイ(宮沢りえ)の父が語ったという「力とは人間を死体に変えることのできる能力」という言葉を自分のものにします。そして、その場面を中継していたディレクター(野田秀樹)・AD(三宅弘城)・ディレクターの暴力的な妻(渡辺えり子)は、電話の向こうのユダヤ人の社長からより過激な暴力を撮るよう命じられます。そのときの妻のこのロープが張られている限り、この中では何でもできる。この中では何が起こってもいいんだよ
があからさまにこの芝居の主題を示しています。そして、高い黒地に一面に白い文字が列をなして並んでいる背景が墓碑銘であることに、ここでようやく気付きました。
突如始まった二度目の試合に現れたグレイト今川たちがかぶる覆面は、テロリストがかぶるそれ。威嚇のためにノブナガが射った空気銃に実弾が入っていたことから、当人たちの意思にかかわりなくリング上の闘いは凄惨な殺し合いに変わって行きます。実況を続けるタマシイの耳にヘリコプターの音の幻聴が聞こえてきたとき、舞台は小さなベトナムの村ミライに変わります。ここで行われる虐殺の描写が、凄まじいもの。村人たちに対する銃の乱射・爆弾・強姦・放火……ちょっとここでは書き記せないほどの酸鼻を極める情景が、どこまでも明るい口調のタマシイの実況で語られます。その、天気のいい朝にたった4時間で滅びた村から逃走したアメリカ兵が瀕死のベトナム女性から受け取った嬰児が、タマシイでした。そして、
「まだ遅くはないのよ。私のミライは滅んだ。けれども、あなた達の未来はまだ、天気のいい朝に、四時間で滅んではいないのだから」
とノブナガに語りかけて消えて行くタマシイの最後の言葉に、ノブナガも観客も、かろうじて救われます。
