東京文化会館で、マラーホフ&東京バレエ団の「眠れる森の美女」を観ました。オーロラ姫は、吉岡美佳さん。座った席は3階の正面で、ちょっと遠いがいい角度です。
序曲に続いて幕が開くと、そこには一面緑の床!ぐるりを柵に囲まれた庭園に、地球儀状のバラの植込みが7個、柵の近くでやはり舞台を取り囲んでいます。カタラビュットが招じ入れる客たちの衣裳も不思議な色使い(オレンジやピンクや紫や……)と装飾的なデザインが面白く、さらに客たちの入場を終えた後に植込みが反転すると、中から妖精たちが出てくる仕掛けになっています。そして上野水香さんのリラの精を中心とした明るく優雅な妖精たちのダンスは、しかしながら見た目の新しさとはうらはらに伝統的な振付けに即したものでした。音楽が緊迫すると、中央奥の植込みの周囲が暗くなって、地を這うようにカラボスの従者たち(照明のマジックでどこから来たのか不思議!)、そしてカラボスが最後に中央奥の植込みから登場。このカラボス、男性が演じているのですが、おどろおどろしい身振りといかにも性格が悪そうな面構えのヤツで、妙に好感がもてます。プロローグから1幕への幕間は、格子とツルバラの幕の前で上手から幼いオーロラ、リラ、下手からカラボス。カラボスとリラの対立の構図が一環していてわかりやすい演出です。
いよいよ第1幕、娘たちのワルツは花輪を使ったものではなかったのが珍しいと感じましたが、その後に颯爽と登場した吉岡美佳さんの、4人の王子たちとのローズ・アダージョ。「がんばれ!」と心の中で声援を送ったものの、バラを取り落としそうになったり、プロムナードも3人で終わったり、図らずもハラハラし通しのオーロラ姫でした。それでも、吉岡美佳さんの美しく高く伸びた足には存分に魅せられて満足。後から出てきたカラボスは、どう見ても怪しいだろうと思える市女笠姿なのに、無警戒に近づいたオーロラはバラの小枝をもらって喜んでいたら棘に刺されて倒れてしまいます。ここで下品に高笑いするカラボスにまたしてもうれしくなってしまいますが、彼(彼女?)はあえなくリラに追い払われてしまいます。そんなに邪慳にしなくてもいいのに。眠れるオーロラは舞台中央で三日月のベッドに横たわり、上から降りてきた楕円形の鳥籠のようなものに囲まれます。王様たちは静かに舞台を去って幕。
第2幕、なぜか唐突にデジレ王子登場。ひとしきり踊り、クラゲのようなひらひら(さすがにこれは……という感じ)をかぶった妖精たちやオーロラの幻と絡みます。いったん降りた幕の間でリラとのマイムの後に幕が上がると、中央の鳥籠の中のベッドに横たわるオーロラに魅了されるのですが、この王子はなんだか情けなくて、カラボスを見て明らかに怯え、リラの陰に隠れて「なんスか?あれ」とやっている様子が笑えます。リラとカラボスの間で優柔不断だった王子も、ついに意を決してオーロラにキスするとカラボスはまたしても退散させられます。少しは王子と戦えばいいのに!
ディヴェルティスマンでは、まずキャラクターたちの登場の場面で、青い鳥が羽飾りをつけていないトンガリヘアで最初わからず、赤ずきんはオオカミの毛皮のショールをまとっているのがシュール……。猫に続いて出てきたシンデレラが、王子に靴を履かせてもらうのが細かい。踊りの方は、宝石の精たちが、それぞれの色に合わせた照明の下で溌溂と踊り、シンデレラもよかったのですが、猫のキャラがくっきりしていて今まで見た猫の踊りの中でのベスト。青い鳥はフロリナの腰を支えてのプロムナードがどたばたし、ジャンプもキレがいまひとつだと感じました。
グラン・パ・ド・ドゥでは、すごいスピード感のパ・ド・ポワソンがびしっと決まっていましたが、(腰を支えてのピルエットから左腕でがしっとつかまえてフィッシュへ)の3連続がしっかり決まって拍手を集めました。男性のヴァリエーションではトゥール・ザン・レールが2回転回りきらず、マネージュも迫力に欠けて「不調?」と思いましたが、元気一杯の女性のヴァリエーションに続くコーダでは盤石のサポートぶりで、最後に後ろから持ち上げたオーロラを次の瞬間右手だけで宙に止めて、フィッシュへ持ち込む力技を見せてくれました。
そして最後、賑やかにめでたく終演かと思った刹那、下手からゆっくり現れたカラボスが魔法をかけると音楽が止まり、舞台上は暗く凍りつきます。スポットライトの中で高笑いするカラボス、ついにやったか!と喜ぶ間もなく、リラの精に四たび追い払われます。しおしおと引き上げていく可哀想なカラボス、今度こそ大団円。
個性的な衣裳・装置には好感を持ちましたが、日本人ダンサーにはちょっときつかったかも。ただし、大柄な上野水香さんと清楚な吉岡美佳さん、そしてもちろんマラーホフその人はぴったりでした。演奏は、指揮はよかったのですがミストーンが多く、楽譜をめくる音などノイズが多かったのも少し気になりました。しかし、スピーディーでわかりやすい演出が最後のサプライズも含めて面白く、もしこの版のDVDが出たら間違いなく買うでしょう。
