「すごいすごい!かっこいい〜!」隣の席の女性が感極まって叫んでいます。東京国際フォーラムのステージ上には、とても還暦とは信じられない若々しい姿(後掲写真を見よ)のままのJeff Beck。そのとおり、彼を形容する言葉は「かっこいい!」でしかあり得ません。
Jeff Beckの今回のライブが彼のキャリアの集大成的なものになるという情報はあらかじめ仕入れていましたが、実際にこの日演奏されたのは、1968年の『Truth』から2001年の『You Had It Coming』まで、彼のソロ名義でのほとんどの作品からまんべんなくセレクトされた充実の2時間でした。
もはや、曲順をなぞるように記録することに意味があるとは思えないのでポイントだけ述べておくと、ミュージシャンの配置は、中央奥にドラムのVinnie Colaiuta(眼鏡が知的でとてもハンサム)。その上手寄りにベースのPino Palladino(すごい長身)。さらに右側前方になんとなくBen Foldsを連想させるキーボードのJason Rebello。Jeff Beckは舞台やや下手に位置を占め、中央のマイクには曲によってヴォーカルのJimmy Hallが立ちます。特にVinnie Colaiutaのドラミングは特筆もので、すごいパワードラミングに見えながら、実はかなり緻密にグルーブを作っており、JeffとVinnieの二人がアイコンタクトで曲をぐいぐいと進めている様子も見てとれ、ベースとキーボードは完全に脇役に回った感じでした。また、「Two Rivers」ではTerry Bozzioの4ウェイハイハットフレーズを繊細なシンバルワークで再現したり、「Nadia」ではエレクトロニック・パーカッションを指先で叩いてタブラ風の音を出したり、「Brush With The Blues」では自在のブラシワークを見せたり。一方、ベースのPino Palladinoはシュアな演奏でしたが、キーボードのJason Rebelloはいまひとつ。ソロのフレーズではどうしてもあのJan Hammerと比較されてしまうので気の毒なパートではありますが、エレピの音をギターにかぶせてしまったり、インタープレイでもJeff Beckとの意思疎通に難があったり。ヴォーカルのJimmy Hallは声質も声量もよかったし、ナイスパフォーマンスであったとは思うものの、出番が全部で5曲(しかもうち2曲がJimi Hendrixのカバー)では気の毒で、いっそヴォーカル抜きで構成してもらった方がいいように思いました。
……などと欲を言えばきりがありませんが、Jeff Beckの自在なギターワークが聴ければ聴衆は十分に満足。それほど彼のギターは常識を超越した音を出していました。Stratocasterをフィンガーピッキングで鳴らす独自のスタイルで、タッピングも多用しながら、あるときはハードに、あるところでは繊細に。「Angel」の高音域でのボトルネックのソロ、「Goodbye Pork Pie Hat」での超高速フレーズ、ラストの「Over The Rainbow」でのハーモニクスのアームによるフレージング。さらに爆音からピアニシモまでを、ほとんど手元のボリューム操作とピッキングだけで使い分けていて、観ている方は、毎度のことながら目が点。そのJeff Beckはいつにも増してごきげんで演奏していて、しばしば笑顔で両手を広げるポーズを見せ、スライドバーを客席に投げ込み、画期的なことに、MCも数回!また、ランニングシャツの上にベストを着て演奏していたのですが、たびたびベストの前がギターの上にかかるのが気になったらしく、とうとう「Blue Wind」の途中でギターを肩からおろすと股の間にはさみ、ベストを脱ぎ捨ててしまった(もちろんその間も他のメンバーの演奏は続いています)のも微笑ましく映りました。
曲によってはミスタッチやフランジャーのノイズが気になりましたし、ショウとしては最後が若干盛り上がりに欠ける部分もないではなかった(「Over The Rainbow」はキーボードとギターでしんみり終わる)のですが、それでも聴衆は最初から最後までオールスタンディングで、Jeff Beckに熱い拍手を送っていました。よーし、こうなったら次は古稀記念ライブだ。