1ヶ月程前に仕事で愛宕グリーンヒルズMORIタワーに行ったとき、エントランスに置いてあったチラシをふととると、それが「愛宕山古典芸能祭2005」のチラシ。小唄・端唄や邦楽演奏とともに、夜は薪能をやることになっていて、これだけは事前申込制でした。そこでさっそく往復はがきで申し込んだところ、抽選に当たってこの日を迎えることができました。
愛宕神社に設営された舞台は明るくライトアップされ、周囲にガスの炎が景気よく燃え上がっています。上手奥の八重桜から時折花びらが舞っていて、ますますいい感じ。定刻の19時にはとっぷりと日も暮れましたが、ちょっと肌寒さを感じる気温です。もう少し暗くなるのかな?と思っていましたが、照明は十二分に明るいままで開演。

佐渡狐
なんともわかりやすく、おかしみに満ちた演目です。奏者が佐渡のお百姓から賄賂を受け取るときに、口ではならんならんと言っているのに視線はあたりを見回してこっそり賄賂を受け取るのに会場爆笑。越後のお百姓が佐渡のお百姓に狐の姿かたちを問うところでも奏者はしきりにブロックサインを送り、越後のお百姓が振り向くとついと素知らぬ顔でまた大笑い。賄賂を送った佐渡のお百姓も自分の国をくさされたのを見返したい一心ですし、賄賂を受け取った奏者ももらった以上はなんとかしてやろうという善意(?)があふれていて、どの登場人物にも嫌みがない、明るい話でした。そして、歌舞伎の松羽目物のルーツを目のあたりにしたという楽しみもあります。
船弁慶
仕舞は能の見どころをとりだしてシンプルなスタイルで演じるもので、シテは面・装束をつけず紋付袴で舞い、地謡も少人数です。舞われたのは、能「船弁慶」の後場、会場に浮かぶ義経・弁慶一行の船に平知盛の怨霊が襲いかかるところ。この「船弁慶」も、河竹黙阿弥作詞で歌舞伎に移植され、新歌舞伎十八番の内とされています。
葵上
こうしてまともに能を観るのは初めてですが、その一見緩やかで、しかし緊張が絶えることのない「間」には圧倒されるものを感じました。橋掛リに現れた六条御息所の怨霊が橋掛リの一ノ松あたりに静かに立っているとき、私の席からはちょうど篝火の向うにゆらゆらと揺れているようにも見えて既にこの世の者ではない気配だし、その静かな姿が葵上(舞台上にのべられた小袖)をきっと睨むところからさらに緊迫感が漂って、そんなはずはないのに泥眼の面の表情が変わったようにさえ見えました。地謡も、それこそ地の底から響いてくるようなあやしい雰囲気。後シテは般若の面になって、小聖と激しく渡り合います。
実はけっこう寒くて、それにひっきりなしに飛行機やヘリコプターの音が頭上から響いてきて、落ち着いて観劇するにはちょっと厳しい環境。しかもシテが現れようとするところで大鼓の床几がばきっと壊れ、そのためにしばらく間があいてしまうというアクシデントもあったのですが、そんなこんなを忘れてしまうほど、こちらも舞台にひきつけられました。
