東京バレエ団の創立40周年記念ガラ「ドン・キホーテ」を、東京文化会館で観ました。興味の焦点はなんといっても、牧阿佐美バレエ団から移籍した上野水香。マスコミ等でセンセーショナルに取り上げられもした移籍劇でしたが、新しい環境で彼女がどんなダンスを見せてくれるのでしょうか。もちろん、これまでまだ通して観たことがない「ドン・キホーテ」全幕を純粋に観たかったというのもあります。
幕が上がるといきなりバジルの床屋で、ドン・キホーテの顔をあたっているバジル(高岸直樹)の仕事の邪魔をするおてんば、というかかなりコケティッシュなキトリ(上野水香)。座席が1階席の一番後ろの方なのでダンサーの表情がよく見えないのが残念ですが、あのよく動く目で豊かに表情を作っている様子が伝わってきます。短かめのプロローグの後に町の広場になって舞台上がぱっと明るくカラフルになり、狂言回しのドン・キホーテ(芝岡紀斗)とサンチョ・パンサ(飯田宗孝)、さらにキトリの父ロレンツォ(窪田央)やガマーシュ(古川和則)のコミカルなマイムにキトリがここでもサービス精神旺盛な演技で絡んでいきます。そして二人のキトリの友人(佐野志織・小出領子)、闘牛士たち、メルセデス(井脇幸江)、エスパーダ(後藤晴雄)。闘牛士たちを従えマントを激しくひるがえしながらのエスパーダの踊りは、回転のタイミングが常に後ろの闘牛士たちと半テンポずれているのが気になりましたが、その闘牛士たちが地面(舞台)に突き立てたナイフの間を縫うように踊るメルセデスは、プロの踊り子の貫禄。そしてバジルの高岸直樹の気合全開な回転のキレの良さは尋常でなくすばらしく、キトリとバジルのパ・ド・ドゥでは、片腕で頭上高々とリフトされた上野水香の足は天地を180度の角度ですっくと指して見せました。ただ、上野水香もかなりの長身なだけに下から支えるのも相当大変そうだし、最後のフィッシュに持っていくところはちょっと危なかったかも。この場面では、ソリストの大胆なダンスもさることながら、エネルギッシュで華やかなコール・ドの分厚さも印象に残りました。広場の喧噪が伝わるかのようにざわざわと動き、はたまた寄ってたかってサンチョ・パンサをトランポリンでぶっ飛ばし、かと思うと見事に統率のとれた流れるような群舞を見せたり。さすが東京バレエ団、上野水香はこれ(が実現してくれる豊かなレパートリー)を手に入れたかったのではないかと思わせるほど。
夜の風車小屋の場面では、男性ジプシーたちの、まるで劇団四季のミュージカルのような派手なダンスが活きがよくて面白かった。ただ、ジプシーダンスならもっとパルマを使うとかタンバリンをしっかり鳴らすとか、ダンサー自身がリズムを強調する動きになってほしかったのですが、あくまでバレエだからそれは無理かな、などと思っているところに続いて踊られた、若いジプシーの娘(吉岡美佳)の何かに取り憑かれたようなダンスが凄かった。軽やかさ・華やかさを競うバレエの表現とは対極の、大地と一体化しようとするような動きと表情に鬼気迫るものがあって圧倒的。続いて、風車に巻き込まれて地面に叩き付けられたドン・キホーテの、夢の場面。キューピッド(高村順子)が可愛い♪……のはさておいて、ドリアードの女王が今ひとつ印象薄いままにドゥルシネアに舞台を引き継いで、ここでも上野水香がきびきびと足技を見せてくれて、ようやく第一幕終了。ここまで1時間20分程、巧みな場面転換でテンポよく一気に通して見せる演出です。
第2幕は居酒屋から。ストーリー主体の場面ですが、ここではメルセデスが見どころで、ひとしきり怪しく激しい踊り、客席に背を向け大きく反り返ったポーズで終わります。そして結婚式の場面へとなだれこみ、ファンダンゴやセギディーリャ等に続いて、グラン・パ・ド・ドゥ。キトリは先程までのコケティッシュな表情とは違って、引き締まった顔つきで大きなダンスを見せてくれました。しかし、ポアントでのバランスは若干不安定で、一度は両腕を上げきるのを断念せざるを得なかったし、最後の32回転は、最初こそダブルやトリプルを交えていたもののすぐに1回転で通すようになりましたが、音楽のテンポが速すぎた様子。ただし、あの高速回転で軸がまったくぶれないのがそれだけでも見ものでした。
21時に終演。オペラグラスを持たなかったことを悔やみながら、上野水香にはもっとがんばって欲しいなぁと願いながら、しかしやっぱりバレエはいいなぁとほっこりしながら、会場を後にしました。