塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

片品川根羽沢大薙沢

日程:2010/09/04-05

概要:大清水から徒歩30分の物見橋に幕営用具をデポして、軽装で大薙沢へ。途中の二俣から左俣を遡行し、稜線に達した後、四郎峠から右俣を下降して物見橋に戻る。焚火宴会の翌日下山。

山頂:---

同行:常吉さん / オグ / デチ

山行寸描

▲3段20m滝を登る常吉さん。上の画像をクリックすると、大薙沢の遡行の概要が見られます。(2010/09/04撮影)
▲続く2段15m滝の上部。すぐ奥に倒木のある10m滝が見えている。(2010/09/04撮影)
▲黄土色のナメが続く右俣の下降。フェルトソールがぴたっと止まる。(2010/09/04撮影)

今年最初の沢登りはどこにしようか……と考えて、尾瀬近辺を探すうちに見つけたのが片品川根羽沢の大薙沢と湯沢です。両者が合流する物見橋にBCを設けてそれぞれ軽装日帰りで遡行できるのがポイントで、前者は滝とナメ、後者は遡行終了後に鬼怒沼湿原へ足を伸ばせることが魅力ですし、何よりBCでの焚火宴会が楽しみ。大清水から物見橋までは徒歩30分ですから、重さや大きさを気にすることなく充実した食材を持ち込めます。そんなわけでライトな沢登りならOKのデチと、熊が出ても戦ってくれそうな空手家オグ、それに焚火宴会と言えば声を掛けないわけにはいかない常吉さんとご一緒することにしました。

2010/09/04

△05:25 大清水 → △05:55-06:40 物見橋 → △08:00-15 二俣 → △11:40-50 稜線 → △12:10 四郎峠 → △13:55 二俣 → △15:35 物見橋

夜行バスで大清水に着いたのは午前5時頃。ご自分の車で先に来ていた常吉さんと合流し、デチとオグは初対面の挨拶を交わします。常吉さんが持ってきた大量の食材とお酒の一部をオグにも持ってもらい、諸々落ち着いたところで出発。戸倉方面に少し戻ったところから東へ向かう林道に入ります。

すすきの穂にかすかに秋の気配を感じながら、非常に歩きやすい緩やかな登り道を30分。明瞭な橋が出てきたらそこが今回の山行のベースとなる物見橋で、ここは今日遡行する大薙沢と明日遡行する予定の湯沢の合流点でもあります。昭和50年代まで金鉱山の設備があったらしいこの場所は明るい広場になっていて、キャンプするには絶好の場所です。あれやこれやの荷物は広場の隅に広げたグラウンドシートの上に置き、ツェルトと銀マットをかぶせてデポ。遡行スタイルに変身して、すぐ近くから大薙沢に入りました。

入渓してすぐに出てくる6m滝は、右手の壁をロープを出して登ります。私の目には顕著な凹状部を上に抜けたところから左へ落ち口の高さでトラバースできると映ったのですが、実際には案外壁が立っているようで、リードした常吉さんは慎重に身体を引き上げていくうちにずるっと滑ってそのまま釜に落ちてしまいました。うわー、冷たそうだ!と見守る我々の目の前で、気を取り直した常吉さんは再び岩壁に取り付くと、そのまま直上して灌木にビレイポイントを作りました。そこから確保されるのなら凹状部の右側の斜面が良かろうとデチとオグを送り出し、最後に私も続いたのですが、確かにちょっと微妙。常吉さんにリードをお願いして良かった……。

その先の小さな釜を過ぎると、かつての鉱山の軌道跡が右岸の上の方を通っている場所にさしかかります。軌道跡は沢沿いに上流へ向かい、釜を持った小滝の上で空中を渡って坑口に消えてしまいました。この小滝は左から小さくへつることができ、その後、沢はところどころくねくねと曲がりところどころにナメ床を見せながらも平凡な渓相で上流へと向かいます。そんな中、常吉さんは水に潜って餌をとるネズミや意外に敏捷なイモリを見つけては我々に教えてくれました。

のんびりペースで二俣に8時着。小休止の後に左俣に進みましたが、ここから徐々に滝らしきものが出てきて雰囲気がぐっと良くなってきました。茶色い光沢のある岩でつくられた段差をいくつか越え、右岸から顕著な滝をかけた支流を合わせた先から等高線の間隔が詰まりだして、ナメ滝を越えた先に7mスダレ状滝が現れました。ここは右のガレを少し上がってから草付をトラバースして落ち口に簡単に抜けられますが、少々高さと足場の悪さがあり、デチにはロープを出しました。この辺りからしばらくが、大薙沢左俣の一番楽しいところとなります。

スダレ状滝の先、2mほどの小滝を岩の凹凸を使って越えるとすぐ眼前に逆光にきらきら輝く迫力のある滝が現れました。これが3段20m滝で、ここも常吉さんにロープを引っ張っていただきました。出だしは左のガレたコンタクトライン。中段で水流を右寄りに渡り、そこから1歩ちょっとしたムーブで左足を上げて滝の右側に出ればOK。続いてただちに2段15m滝ですが、右の草付から登っても滝の左の凹角から登っても問題ありません。さらに出てくる大きな倒木がかかった10m滝は右のガレから巻き上がりますが、弧を描くようにして落ち口へ下りる一歩のクライムダウンがちょっと微妙です。

これらの連瀑が終われば再び沢は普通の姿に戻り、だんだん水量が少なくなってきます。地形図、高度計、方位計を見比べながら遡行を続け、標高1650mの二俣は確実に把握できたのですが、いつの間にか沢筋は進行方向左(東)へ向かい始め、やがて上方にはっきりしたガレが見えてきました。これはどうやら地形図で燕巣山西面の標高1860mのところにある小さなガレらしく、だとするとこのまま進んでも登山道と並行に高度を上げるだけ。目指す燕巣山と四郎岳の間の稜線に出るためには右手へ同高度でトラバースしなければなりません。つまり薮漕ぎです。

少々ためらいはしましたが、薮はそれほど濃そうではなく距離も短いと思えたので、意を決して薮に突っ込みました。すると案ずるより産むが易し、入ってみれば薄い笹薮で歩行にはさほど支障はなく、20分ほどの薮歩きで燕巣山と1891m峰の間の鞍部に出ることができました。ここには明瞭な登山道があり、ゆったりと落ち着くことが可能です。

小休止の後に登山道を西へ進むと、部分的に開けたところからは南に日光白根山や丸沼がきれいに見えています。1891峰を越えて下り着いたコルが四郎峠で、標識がたくさんあるので迷う恐れはありません。ここにはかつては根羽沢から丸沼へ越える道が通っていたそうですが、今は丸沼方面にだけ道が残っています。北側の大薙沢右俣への下降は、最初は草付の急斜面、ついでガレガレの沢筋となりますが、慎重に下ればロープなしでも大丈夫。ただ、この下降の途中でオグの渓流タビのフェルトソールが徐々に剥がれてきてしまいました。昨年秋の湯檜曽川本谷のときにも剥がれてしまい、その後ショップで修理に出したそうなのですが、両足とも剥がれてきたところを見るともはや経年劣化してしまっていたのかもしれません。ともあれここはテープで応急処置をして、なんとか下降を続けました。

ガレを下ること30分、ついに前方に黄土色のナメが現れました。これが楽しみで大薙沢にやってきたのですが、ナメの見事さは想像以上でした。ちょっと不気味なくらいに明るい黄土色の粘土を固めたような沢床はごく緩やかに高度を下げており、おまけに驚くほどにフリクションが利いて沢靴ですたすた歩いて下れます。これには常吉さんもデチやオグも大喜び。私もそれなりにいろいろなナメを経験していますが、こんなタイプのナメは初めての体験です。いったいどんな種類の岩でできているのだろう?

20分ほども楽しいナメ下りが続いた後に易しいクライムダウンを伴う3段10m滝を下って、ナメの舗装路は終了です。そこからは普通の渓相になって、やがて二俣に戻り着きました。ここからは元来た道を下るだけのつもりだったのですが、改めて下ってみるとところどころに良さげなナメや釜があって随分印象が違います。登りのときは足元を見つめてひたすら歩くだけだったのですが、下りだと余裕ができて視界が広がるからでしょうか。しかしオグのシューズはいよいよひどいことになってきて、何度もテープを巻き直さなければなりませんでしたが、実はこのときデチの方も親指の爪をはがしかけて痛い目を見ていたことを知ったのは遡行終了後のことです。

そんなわけでへろへろになりかけていた2人を尻目に、常吉さんは手頃な釜を見るとジャンプ!滑り台を見ればスライド!ただしこの沢の滑り台はフリクションが利いてあまり格好よく滑れないのが玉に傷です。特に楽しかったのは軌道が上を通っている小滝の釜で、ここはそこそこの深さがあり、常吉さん、オグに続いて私までダイブして全身ずぶ濡れ。私はイヤよとへつろうとしたデチも結局へつりに失敗して水没する羽目になりましたが、いかな猛暑でもさすがに日陰の沢ではちょっと寒い思いをしました。

そして、最後の6m滝を懸垂下降で下ればすぐそこが物見橋です。装備を解き、灌木の間にロープを渡して濡れものを引っ掛けて、テントを設営しました。

幸い広場には他に誰もおらず我々の独り占めなので、そのど真ん中に石を組んで炉を作り近くの河原からたっぷりの薪を集めて焚火の準備を整えると、待望のビールで乾杯!そしてチーズ鱈をつまみに喉を潤した後に焚火に点火すると出てきたのは、巨大な黒胡椒ベーコンブロックです。これを人数分に切り分けて焚火の直火で炙ると、じゅうじゅうと肉汁が出てきて素晴らしい味になりました。うーん、ゴージャス。常吉さんが持ち込んで下さったお酒はさらにワイン(赤白)、バーボンと続き、食べる方も茄子の浅漬け、水餃子、ウインナー、炊き込みご飯と次々に出てきて大満足。降るような星の下で宴会は続き、最後にデチがバナナを真っ黒になるまで焼いて中をとろとろにしたところにカラメルをかけたデザートを作ってくれて、ようやくお開きになりました。もっとも、常吉さんはいつの間にか撃沈して一人で先にテントに潜り込んでいたようですが……。

2010/09/05

△10:10 物見橋 → △10:40 大清水

5時起床。前夜の焚火の灰の中には期待通り熾火が残っていて、乾いた小枝をまとめて押しつけながら息を吹きかけるとすぐに燃え着いてくれました。我々がまったり準備している間にも単独行、5-6人パーティー、単独行がそれぞれ大薙沢へ入っていくのを見送りましたから、この沢は意外に人気が高いようです。煮しめたうずら卵入りのぜいたくなラーメンの朝食を終え、まだ冷たい沢靴に足を突っ込み、諸々の身支度を整えて今日は湯沢へ向けて我々もいざ出発!

……だったのですが、オグの沢靴が相変わらず不調。すぐに細引きで親指回りを縛って応急処置とし気を取り直して出発しようとしたのですが、今度はデチがイテテという顔をしています。しっかりテープングをしてはみたもののやはり足指が痛むようで、常吉さんと顔を見合わせましたが「これは中止ですね」「うん、仕方ないね」と協議が調い、出発後1分でこの日の遡行は中止になりました。痛さよりも申し訳なさでデチは涙目になっていましたが、まぁ前日1本遡行し宴会もできたのだからよしとしましょう。そうと決まれば後は温泉に入って帰宅するばかりですが、この時刻では早過ぎるので日なたに濡れものを広げて片っ端から乾かし、一度始末した火をもう一度熾して残っていた薪を全て二酸化炭素と真っ白な灰にしました。

2時間ほどもまったりして全ての荷をすっかり乾かしてから物見橋を後にしました。だいたいこういうときに限って悔しくなるほどの快晴だったりするのですが、この日もご多分に漏れず抜けるような青空。来年再びここに来て、怒濤の宴会をしてから湯沢リベンジを果たそう!と誓い合いつつ大清水に向かったのですが、この「土日で2本の予定が1本で終わり快晴の中を空しく下山する」というパターンは前週の岳沢に続いて2週連続です。もしや負け癖がついてしまったのか?どこかで風向きを変えないといけないなぁ。でも、その負け癖の発端は5月の涸沢でのチョンボで、結局は自分のせいなんだよなぁ……。